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匿名さん (9kg89pks)2025/6/13 15:01 (No.1458865)削除
音韻対応について
 サンフォード・B・スティーヴァー監修の“The Dravidian Languages”(Routledge.1998)に以下の記述がある.
 巻舌(セレブラル)の/r/(引用者註…本書では/z/で表記)は,多くのタミル方言において巻舌の/ḷ/と同じ発音が行われ,いくつかのタミル方言では硬口蓋接近音/y/として発音される.したがってpazam[熟した果実(ripe fruit)]はpaḷamまたはpayamと発音されることがある.即ちpazamはpaḷamあるいはpayamとも発音される.(引用者註…日本語に即していえば,タミル語kaḷi[粥(かゆ)(gruel)]は,日本語kayuとなる.なお,巻き舌音でなくとも,例えばollenaとoyyenaというような交替形がある.巻き舌音は江戸っ子のべらんめぇ口調と類似する).
 弾音の/ṟ/はドラヴィダ祖語の歯茎閉鎖音/t/に対応する.また母音間にあるとき,例えばaṟai ‘room’とarai ‘half’は同じ発音になる.子音群/ṇṟ/は,いくつかの言語変種(方言)では[ndr]と発音されるが,それ以外では歯音[nd]または反り舌音[ṇṇ]として発音される.(引用者註…日本語との対応も/ṇṟ//ṇṟ/は共に,/nd/とも対応する).
 重複する弾音の/ṟṟ/はいくつかの言語変種(方言)では[tr]と発音されるが,それ以外では歯音/tt/として発音される.例えばkāṟṟu ‘wind’は,kātrɯまたはkāttɯと発音される.
⑦OPLの子音対応に関する重要部分の抜粋及び補足は以下の通りである.括弧内は大野「形成」の該当頁である.なお詳細は大野「形成」を参照されたい.
A).タミル語の唇子音po-,vo-,mo-の場合,日本語ではfo-,wo-,mo-のいずれかと対応する例が多い.
B).タミル語k-は日本語k-と対応する.ただしタミル語k-は後続母音がi,eの場合,即ちki-,ke-の場合,タミル語内部でk>c交替してci-,ce-となる場合がある.しかしki-,ke-の次に巻き舌音が来る場合はk-のままである.言い換えれば,ce-あるいはci-で始まるタミル語は,*ke->ce-,*ki->ci-という口蓋化が同じドラヴィダ語族に於けるタミル語などに生じるので,それが日本語にも及んでいる(本書で*A>Bとある場合は,左側は古形を表わす.またアスタリスクマーク(*)は推定形を表わす).
C).タミル語c-(古代は*tyであったと大野博士は想定する)は,日本語s-とt-に対応するが,c-はタミル語内部で消失する場合があり(ただし,法則性はない),それは日本語にも反映されてs-が消失する場合がある,したがって,タミル語母音で始まる単語がある場合,その語にc-を加えると日本語の語彙及び意味に非常によく合致する場合はc-の脱落形と見て,日本語ではs-もしくはt-を前接した(タミル語c-はタミル語内部でt-とも交替する.その影響で日本語においてもタミル語c-は日本語t-とも対応する).ただし,日本語では脱落形と非脱落形が共存する例もある.太陽を意味するiṇ-aṇは*ciṇ-aṇでもある.これは日本語「イナノメ」と「シノノメ」のごとく,in-a,sin-oとして実現する.このc-脱落形が辞書に見られない場合があるのは,日本に渡来したタミル人(おそらく交易従事者のカースト)の発話習癖に依るものかも知れない.
D).タミル語t-は歯音の無声破裂音で,日本語のt-,s-と対応する.大部分はti/si,te/siだが,ta/saの例が多少ある.
E).タミル語ṅ-(*ny-),n-は,日本語n-と対応する.
F).タミル語p-は,約9割が日本語f-と対応し,約1割が日本語w-と対応する.タミル語内部でp/v,pp/vv交替があるので,その交替が日本語にも反映している可能性がある(大野「形成」pp.40-41).
G).タミル語m-は日本語m-と対応する(同上).
H).タミル語v-は日本語w-,f-と対応する.比率はw-約9割,f-約1割である(同上).
I).母音間の破裂子音であるタミル語第2子音-k-,-kk-は日本語-k-と対応するが,タミル語の-kk-は鼻音の子音複合である-nk-と交替する場合がある.これは日本語-g-となって実現する.
J).タミル語内部でko-/co-対応する場合がある(大野「形成」p.238).
K).タミル語においては,子音k,t,pを表わす文字は語頭においても,語中においても同一の字கが使われている.例えば,タミル語で語頭に書かれたக[ka]は語中においても同じくக[ka]と書かれている,この語中のக[ka]を現在では[ga]または[xa]あるいは[ɣa]と発音するが,ともかく[ga]または[ɣa]のための別の字は使用されなかった.同一の文字はその文字の制定された時代には同一の音を表わしたとみるのが一般的であろう(大野「形成」p.51).

◆OPLの母音対応に関する重要部分
なお詳細は大野「形成」(pp.23-30)を参照されたい.
A).タミル語母音は次のように日本語母音と対応する.なお日本語母音にöなどウムラウトが付くものは乙類を表わす.
 (左がタミル語,右が日本語).
a/a,a/ö i/ï,u/u,u/ö,e/i,o/a,o/o.
 a/öは日本語内部の交替である.したがって,タミル語aと日本語aの異音(allophone)として,a/ö交替がある.タミル語表記でā,ī,ū,ē,ōとあるのはすべて長母音を意味するが,日本語ではすべて短母音で対応する.ただし僅かな例外がある.
B).タミル語内部でi/u交替がある.したがって,その影響でu/i,i/u対応する場合がある.
 なお,上記にはないが,oとuはタミル語内部で交替する場合がある〔例えばsense of shame(羞恥心)という意味のconaiは,cunaiでもある〕.本書ではこのような例はo/u交換とした.
C).i/yu交替する(p.143).この対応例は,「いく」と「ゆく」,「いるがせ」と「ゆるがせ」,「いし」と「よし」などに見られる.
D).タミル語e(長音も含む.以下同じ)は一般的に,日本語iと対応するが,唇子音の後のeはそのまま日本語eとして実現する[タミル語peṇ(woman, girl)と日本語方言fen-a(woman, girl)など].ただし,中央方言ではpeṇは日本語「雛(fina)」となっている(/ṇ/の開音化).peṇ「動植物の雌(female of animals and plants)」をも意味する.
E).ドラヴィダ諸語の中で,タミル語特有の変化として,*a>e交替するものがある[異音(allophone)=調音点を少し異にする同一音素.位置・条件によって変異する音].
 この場合,タミル語eは日本語ではaと対応する場合がある.これはeの古形がaであったともいえるが,異音ともいえる面がある.本書では書いた時期の違いにより,これらの多くを単に「交替」としたが,異音とした部分もある.
F).タミル語内部でa/uの母音交替があり(pp.14-16),それが日本語に影響しているものもある.
 これらからタミル語と日本語の間でa/a.a/öという基本的交替がある他,異音としてのa/e交替,タミル語内部でのa/u交替があるため,これらが日本語にも反映し,多様な対応は避けられない現実がある.

◆その他
*本書中に[ref]とあるものは「参考」を意味する.
*本書は古事記,日本書紀,万葉集などに記述されたやまと言葉であれば,語彙を選ばず,片端からタミル語と対応させることを基本方針とした.したがって,OPLからはみ出す対応も含む.それらは日本語内部での音韻交替の結果であろう.ただし,OPLに厳密に従っても,それなりの有意の結果は得ることが出来る.
*文中,甲類,乙類とあるのは,ある音,例えば「ト」には音素がやや異なるものがある.それらがどういう発音であったかは不明であるがタミル語との対比である程度は解明できるかも知れない.甲類,乙類の区別の表記は一部のみ,必要に応じて記述した.その場合,乙類はä,ö,ü,ï,ëで示す.
*タミル語表記で子音の下に短い点がある場合(例えばtamiḷの/ḷ/)は,すべて巻き舌音(反り舌音・歯茎ふるえ音ともいう)を意味する.ただし,/r/の巻き舌音は既述のように/z/で表記した.
それ以外の巻き舌音には/ṭ//ṇ//ṇṭ/があるが,これらの音はいずれも日本語/t//d//nd//n//r/に対応する.
*上記以外の子音で何らか記号の付くものは弾音(フラップ)である.なお,本書ではこれらの記号の意味を必要に応じて日本語でその都度説明を加えた.
*/a/などのような囲み表示は本書では格別の意味はなく,見易さのためにのみ用いている.
*ドラヴィダ語族は印欧語族の流れを汲むサンスクリット語圏と隣接するため,その一派のタミル語にもサンスクリット語由来の語彙も含まれるが,接触言語においては,日本語との対応からこれらを除外する理由もないので採用した.
*タミル語に頭子音/c/及び/y/の脱落が見られるが,タミル語が属するドラヴィダ語族にはその非脱落形がみられるため,タミル語と日本語との対応においてはそれらの傾向を考慮した.「文献に見える古代タミル語の語頭に(長母音の)/ā/,ē/,短母音の/e/がある場合には,古代タミル語の文献の中に/yā/の形で見られなくても原始タミル語には/yā/の形が存在していて,その/yāのy-が消失した結果,/a/または/eの形になるものもあったと推定される」(大野「形成」.p.45).なお私見だが,短母音/a/も/yā/となり得るように思える.
*本書の送り仮名について,例えば「おこなう」は「行う」が現行,正しいとされているが,タミル語での形態素は「オコ・ナフ」なので,本書では「行なふ」とした.この「オコ」とは,タミル語ahk-am[行動方針(course of action)」のことで,「なふ」はそれを「実行する」という意味のnav-il[遂行する(to perform)」である(v/f交替.-lの脱落).したがって本来は「行なふ」なのである.また日本語内部で文法化した語は,基本的に「ひらがな」で表記した〈例…「従って」→「したがって」〉.
*摩擦音である/h/は一般には/k/と字訳されるが,これは短母音と閉鎖音の間においてのみ現れる.ただし,出現は稀である.
*タミル語の音価記号は参照文献により異なる場合(記号の改訂など)がある.本書では用いた書籍,あるいは書いた時期の相違もあり,本書上梓にあたり極力一本化したが,僅(わずか)に漏らしがあるかも知れない.ただし日本語との対応に際しては何ら支障はない.
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大川龍喜さん (8owe28wq)2023/4/10 17:17 (No.753418)削除
よろしくお願い致します。
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